病院の財務諸表を読みほどく:②損益計算書の組み換え
前回に引き続き、今回は病院の損益計算書の分析を行います。前回は病院決算の少し様の違う勘定科目などを解説しましたが、今回はそれを組み替える事により、より一般企業に近い形の損益計算書を作ってみます。
まず最初に注意点
まず最初に注意しておきたい点は、この組替の目的は「病院の収益構造を一般企業と同等の損益計算書を作り分かりやすくする」ことであり、病院の決算がおかしいだとか、利益体質が全くないとか批判するものではありません。
そもそも、病院は非営利法人ですし、営利法人である企業と全く違う決算書になるのは当然です。ただし、一般的には営利法人の決算に関する財務分析が一般に知られていることから「経営がうまくいっているか」という点を追求するにはそのような組替を行うのが便利だろうという意図で行っているものです。
調整後損益計算書
出所:加古川市民病院機構資料より無職作成
では、上記の筆者(無職)が作成した調整後損益計算書を見ていきましょう。これは以下の点を修正することにより一般企業の損益計算書に近づける形にしました。
- 営業収益(売上収益)の中にある交付金・補助金等の項目を営業外収益に組替
- 医業費用を売上原価とし、売上総利益にあたる項目を作成
- 営業外費用の「控除対象外消費税」に係る項目を一般管理費の中に算入
- 上記計算のもと、売上収益/売上総利益/営業利益を再計算
3つ目のみ説明しておくと「控除対象外消費税」が何故営業外費用に病院決算で含まれているのか筆者には分かりません。何故ならば、控除対象外消費税は医薬品などの購入において恒常的に発生する費用であり「租税公課」の一種であるからです。調整版においては、一般的な慣用に従い、これを一般管理費に入れておきます。
これを用いて、一般企業と同等の基準で見たときに病院の収益構造はどうなのか、という点を掘り下げていきましょう。
組替損益計算書から読み解けること①:粗利の低さ
まず最初に目につくのが粗利(売上総利益)の低さです。なんと、6期中3期で粗利が赤字になるという大変な状況です。これを「医業収益が低すぎる」とみるか「医業費用が掛かりすぎている」とみるかはこの情報だけからは判断がつかないため、今後の記事で掘り下げていきます。少なくとも理解するべき事実は、同院は粗利が低すぎるという事です。
組替損益計算書から読み解けること②:基本的に営業損失、交付金で赤字補填
粗利段階でほぼトントンなのですから、一般管理費を引いた営業損益は常に赤字です。安定的に毎年10億円程度の赤字を出しています。そこに、交付金を中心とした営業外収益が10~15億円程度加わり、なんとか経常利益段階ではプラスに持ってきています。
そのため、現状同院の経営モデルは交付金・補助金頼みであるという事が分かります。筆者(無職)は病院は社会インフラだと考えているので、そういった施設に交付金が提供されるのは当然の事だと考えますが、それらに依存してしまう状況は宜しくないでしょう。
結論:どちらの問題かはまだわからない
これらから、まず「加古川市民病院機構の経営は交付金・補助金頼みである」という事実が得られますが、その理由についてはまだ議論の余地があります。多くの場合において、こういった話になると「そもそも医者が貰いすぎだ」「お役所仕事で無駄が多い」などといった感情論になりがちです。しかし、日本では世界でも類を見ない低価格の医療サービスが提供されているという事も事実であり「運営すらままならない程度のお金しかもらっていない」という医療報酬の低さに依存する問題である可能性もあります。
幸いにして同院は様々な情報開示がされており、事業報告書において「1日あたり入院診療単価」「病床利用率」など、それらを読み解くキーとなるデータを開示してくれています。次回の記事では、それらを更に深堀りすることにより同院の収益構造について読み解いていきます。