無職の視点(NEET's view)

無職なりに色々と考える事があるのだ

日本の病院の経営について

日本の医療問題の一つのトピックとして、病院経営問題に取り組んでみたいと思います。まず本稿においては経営が崩壊しているかどうかの議論の前に、そもそもの病院の基礎事項について整理したいと思います。

医療法上の病院と診療所

まず、日常用語としての「病院」と法律用語としての「病院」を明確に区別しておきます。医療法によると「病院」と「診療所」は次のように定義されています。

  • 病院:20床以上の入院施設を有する医療機関
  • 診療所:19床以下の入院施設を有するもの又は入院施設を有しない医療機関

つまり、皆さんが風邪を引いたときに訪れるであろう近く小さなクリニックは、法律上は「診療所」であり、「病院」ではありません。20床以上というのは相当の規模であるため、文字通り「〇〇病院」という看板が掲げられているものでない限り、法律上も病院ではありませんし、病院と名乗ることも出来ません。

では、この「病院の経営が悪化している」というのは法律上の病院に限った話なのでしょうか。それとも診療所の経営も悪化しているというのでしょうか。はて。とりあえず当面は、どちらの状況も見ながら議論を続けることにしましょう。

診療は診療所、入院は病院が担う

医療機関の機能は大きく「診療(外来)」と「入院」に二分されます。

厚生労働省の医療施設調査*1によると、2016年の「病院」の数は全国で8,442軒。一方「診療所」は101,529軒に及びます。このことが意味するのは、「診療機能」の9割方は各地に点在する診療所に委ねられているという事です。確かに、風邪を引いても大抵向かうのは近くのクリニックで、病院に行くことなんて滅多にありませんよね。

その一方で、病床総数は病院が1,561,005床、診療所が103,451床。1施設辺りに換算すると病院平均が185床であるのに対し、診療所は1床に過ぎません。これは「入院機能」はほぼ大施設である病院に委ねられているという事になります。確かに、近くのクリニックで入院するなんて話は、あんまり聞きませんよね。

このことから、診療所と病院は収益構造が大きく異なる事が分かります。収益源としては前者は基本的に診療のみですが、後者は診療と入院の両者による収益があります。一方で、病院1施設には平均185床の病床があるわけですから多くのスペースが必要となり、地代に加え看護師などの人件費も大きくかかります。つまり、病院は入院機能を担う性質上、必然的に固定費が大きくなってしまうのです。

病院の経営主体とその決算

では、少し「病院の経営」にフォーカスしてみましょう。下図は2016年度の「病院」の経営主体の内訳ですが、その大半を占めるのは「医療法人」です。その次がいわゆる市民病院などの公的医療機関となります。

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出典:2016年度「医療施設調査」

これらの病院の経営状態を見るには「決算書」を見るのが一番手っ取り早いでしょう。しかしながら、ここに一つ大きな問題があります。病院の最大数を占める医療法人は、医療法51条で財務諸表の作成が義務付けられているものの、その決算情報の公告義務はないという事です。

通常、上場企業などであれば有価証券報告書決算短信などの情報は、法令の定めや取引所のルールによりEDINETやTDNETといった世界中から誰でもアクセスできる場所に公開する必要があり、また企業側も自主的にIR情報を自社ページなどで開示します。

勿論、非上場企業であればそのような義務はありません。しかし、非上場企業であっても会社法により財務諸表を作成し、官報への掲載もしくは自社ホームページにおいての公告を行う義務があります。会社法財務諸表はあまり情報が多くないものの、社会的注目度の高い企業は非公開企業であってもこのような形で監視に晒されます。

しかし、医療法人の決算は医療法52条において「各地方自治体への届出」が義務付けられているのみで、基本的に大きな病院でもウェブサイトなどでは公開されていません。勿論、医療法52条により自治体の窓口に行けば財務諸表を手に入れる事は出来ますが、なかなかそのようなインセンティブは働きません。

何故なら医療法人は非営利企業で「ビジネスの世界」からは程遠いからです。医療法人に金を貸す予定の銀行の融資担当者ならいざ知らず、多くの人にはメリットのない事です。しかし、病院は保険制度という日本の社会保障機能に大きく依存した業態である事を考えると、ガバナンス不全であると指摘されてもおかしくないと思います。

とりあえず、決算書を手に入れよう

現行のシステムに苦言を呈するのはこの辺にして話を前に進めると、結論としては病院の決算書を手に入れるのは少し骨が折れる作業です。しかし、一部には例外もあります。例えば、国や地方自治体の独立行政法人が経営する病院に関しては、独立行政法人等情報公開法に基づき、決算情報の明確な公表義務があります。例えば、地方独立行政法人神戸市民病院機構のホームページには平成21年度からの決算情報がすべて掲載されています。

www.kcho.jp

そこで、とりあえずはこういったインターネット上での公開情報の多い病院を基にして、そもそもの病院の収益構造を理解するところからはじめようと思います。とりあえず、最初は神戸市民病院機構の分析をしてみようかな。こんな暇なことが出来るのも無職の特権という奴です(`・ω・´)シャキーン

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